田舎の自称進学校

妹も高校受験の時期になり,母親は何かと心労が溜まっているようだ.

初めての共通テストを受けた今年の高校生たちも,例年とは異なる形式の大学受験に奮闘していることだろう.

受験シーズンになると自分の高校時代を思い出したりする.私が通っていたのはいわゆる,田舎の自称進学校だった.都会の進学校とは学力も意識の高さもまるでレベルが違う.

とはいえ,先生方はなんとか全国レベルの進学校の生徒に対抗できるよう,意識を高める工夫をしてくださっていた.

そのための活動として,著名人の講演会や東大生との交流会などがやたらと行われていた.特に頻繁にあったのが,OBOGとの交流会だ.大学生である先輩から,受験生にとって有益なお話が聞ける機会として設けられていた.受験の体験談の他にも,進路選択の材料となるような大学の専攻について知ることも目的だった.

ある時,いくつかの学科のリストが配布され,興味のある学科を選択するように指示された.その分野の学問を専攻するOBOGから貴重なお話を伺うというイベントだった.

その時点で自分の興味が定まっている生徒はおそらく少数で,私もどんな学問を専攻したいかなどまるで決まっていなかった.とりあえずなんとなく選んだのは,確か社会学科的なものだった気がする.

振り分けられた教室へ入って,ある大学生の講演を聞いた.ぱっと見どんなことを学んでいるか分からない学科名だったが,私以外にもその講演を聞きに来ていた人は結構おり,教室には30人ほどいたと思う.

大学生の彼は,高校時代の自分の話や大学で学んでいることなどを語った.そして講演の後半,聴講している私たちにシートを配り,そこにある質問事項に答えてみようというタスクを課した.

正確には覚えていないが,質問事項には「自分の長所」「自分の短所」「卒業するまでにやっておきたいこと」などが含まれていた.

記入時間を与えた後に大学生は,ランダムに生徒を抽出して発表させると言い出した.どうやら聴講者の氏名リストを持っていたようで,そこから数人の生徒が選ばれることになった.

1人目に選ばれたある女の子の発表が終わり,2人目に運悪く私が選抜されてしまった.このような場での発言は苦手だったが,私は淡々と発表をした.ただし,最後の「卒業するまでにやっておきたいこと」が「お寺巡り」ですという部分だけ,極端に小さい声になってしまった.

1人目の子の発表を聞いた時点で気づいていたが,その項目は本来「単語帳をすべて暗記する」とか,勉強に関するノルマを答えるべきものだったのだ.

しかし突然指名されて別の回答を考える余裕もなかった私は,書いてある通りのことを読んだ.でも頭の中では的外れでトンチンカンな発言だと分かっていたためか,つい自信無さげな小さい声になってしまった.

恥を忍びつつも発表を終えてサッサと座ろうとした私に,あろうことか大学生は「最後のとこだけ聞こえなかったからもう一回言ってくれる?」と要求した.

仕方なく「卒業するまでにやりたいことはお寺巡りです」と言い直した.大学生は聞き取れたようだったが,腑に落ちない様子で頷いており,深く掘り下げられることもなく終わった.

「お寺巡り...?」と後ろの方で誰かが呟いているのが聞こえた.何言ってんだコイツとでも思われたのだろうか.その時若干ざわついた.私は平静を装っていたが内心めちゃくちゃ恥ずかしかった.

講演が終わって教室を出るとき,同席していたクラスメイトたちがなにやら爆笑しているのが見えた.まさか自分のことを笑っているのではないかと考えた.寡黙で何を考えているか分からない人が変な発言をしたのが面白かったのだろうか.

そんな切ない思い出もある高校生活だった.あの頃は班室で一人でお弁当を食べたりするなど,実に寂しい時代だった.JKらしい華やかな体験を一つでもしておくべきだったかもしれないと今にして思う.